夢と知りせば醒めざらましを

楽しいこと全部、私のもの

おとなになるにはどれくらいのわかれとうれいをかぞえるのだろう


今日で20歳になった。ここ数年、今日の昼になるとお母さんからおめでとうメールが届くようになった。照れくさいから返事はしないし帰っても話題にも出さない。毎年なんの気なしに受け取っていたそのメールだけど、今年はちょっと身構えていた。20歳の誕生日といえば、ドラマの世界では、両親が深刻な顔をして「実はあなたはうちの子じゃないの…」というカミングアウトを受けて部屋にこもって一人すすり泣く、というのが定番だ。私はそれを恐れていた。高校の時、友達に「今からとても頭の悪い話をするね」と一言おいてからこの話をしたら真顔で本当に頭の悪い話だったねって言われた。実際、そんな可能性は99%ありえない。だってちゃんと家に生まれたばかりの頃の写真もあるし。いやでももしかしたら私じゃない別の誰かかもしれない。そもそも我が家には私の写真があまりない。次女だからというにしても少ない。怪しい。なぜここまでこだわるかというと、一時期その状況に少し憧れていたからである。中高の時、よく家族と揉めた。今考えると私は思春期だったし、お父さんは仕事の多忙期だったし、お母さんは更年期だった。みんながみんな自分の事しか見えていなかった。誰かとぶつかる度に「私は本当にこの家の子だろうか。本当はよその子だからこんなに厳しいんじゃないか」と真面目に思っていて、自然とよその子という可能性に希望を見出していた。今思い返すとバカだと言う言葉しか出てこない。大学に入ってからは以前ほど喧嘩しなくなって、よその子に憧れることもなくなった。そして先程、運命のメールが来た。例年と変わらない文面だった。良かった。これで私がよその子ではないかという疑惑が完全に晴れた。逆に言うとこれからはいくら親のことを嫌いになっても血が繋がっているという事実から目をそむける事はできない。何があってもお父さんとお母さんの子供であることを一生認めなければならない。大げさだけど20歳になって変わったことの一つ。


20歳になるのが嫌だ。20歳になったところで何も変わらないのに周りからは「もう20歳なんだから」と言われるのが目に見えるから。そう言われた場合、「まだ学生だもん」で乗り切ろうと思っている。大人とか成人とか全く実感がわかない。昨日の私と今日の私が大きく変わるとはとても思えない。ただ、合法で酒やタバコが買えるようになったり、遊園地や美術館などの入場料を昨日より多く払わなければならなくなるだけ。大人になるってなんだろう。実年齢と精神年齢が噛み合わない。ずっと10代のままでいたかった。そう思うようになったのは19歳になってから。10代というブランドを捨てなければならないことに恐れを感じた。10代だから許されてきたことがこれからは許されなくなる。怖い。大人になるって怖い。ポケモンはBボタンを連打すれば進化が止まるように、人間にもそういう機能があればいいと思う。そもそも私はこの歳まで生きているとは思わなかった。別に持病があるとかではないけれど、小1の頃、小2くらいで交通事故にあって死ぬと思っていた。10年後とか、当時の私にはあまりに遠すぎて想像なんてできなかった。今でも10年後なんて全く想像できない。中学生の頃、高校生になる自分が想像できなかった。高校生の頃は、大学生になる自分が想像できなかった。そして今は仕事している自分が想像できない。それでも想像できないなりに少しでも明るい未来をと思ってそれなりに頑張ってきた。そしてそれなりに今までの人生は満喫できている。もちろん辛い時期もあったけどそういうのひっくるめても悪くない人生だったと思える。これからも現状維持、願わくばそれ以上になればいいなと思う。


お気づきの方もいらっしゃるとは思うけれど、タイトルは『I・N・O=NUT KID(以下、イノナキ)』(作詞/作曲/歌 井ノ原快彦)からの引用。以前はメロディーを特に気に入っていたけれど、ここ最近20歳を意識し始めてからというもの、歌詞の方が効いてくる。NUTと言う単語の意味を知らなかったので英和辞典で引いてみたら、俗語で「変わった、狂った」と言う意味が出てきた。KIDは子供、とかガキとかそういう意味だと思い込んでいたけれど若者を指す言葉でもあるらしい。でも知恵袋様がNUT KID=悪ガキと言っているのであまり複雑に考えるのはやめよう。なんせド新規なもんでこの曲が作られた背景とか全く知らないけど今の私くらいの歳の心情を歌った曲であってほしいなと思う。10歳の時に感じたことを歌にしましたとか言われたらどうしよう。勝手に今の私くらいの歳向けの歌であると解釈することにする。イノッチは今の私くらいの時、V6としてデビューを果たした。この歳で芸能人として働いてお金もらうって改めてすごいことだと思う。でもイノッチより下に更に3人いて、イノッチはアダルトチームに入れられる。まだ19歳だったのに。当時のイノッチの写真を見ても、とても今の私と同い年くらいとは思えないほどには大人っぽいと思う。老けてるとかそういう話じゃない。顔つき、言動、何をとっても19歳とは思えない。それは多分少なからずjr.時代が長くて歳下だらけの環境で過ごしたこととか、V6でも真ん中の立場として上に気を遣いつつ下の面倒を見たりしたことが関わってくると思う。辛かったと思う。その上5つも上の坂本くんに「お前がリーダーやってくれないか」などと頼まれたりしていただなんて。19歳。私にはまだ大人の自覚がなかった。イノッチももしかしたらそうだったのかもしれない。けれど周りがそれを許さなかった。周りはイノッチが大人になる前から大人にしようとした。そのせいでイノッチは大人になる前からたくさんのものを抱えてたと思う。矛盾、葛藤、責任、その他簡単に想像し得ないもの。きっと19歳の私なんかと比べ物にならないくらい大人だった。そんなイノッチが大人を自覚し始めたのはいつだろう。イノナキが実際に作られたのはいつかわからないけれどこの曲が収録されているアルバム『Voyager』が発売されたのが2007年9月12日。そしてこの16日後、9月28日に瀬戸朝香さんとの結婚を発表する。この9月28日は『V6 LIVE TOUR 2007 Voyager-僕と僕らのあした-』の初日でもあった。私は現場を見ていないからこれは予想になるけれど多分イノナキを歌ったんじゃないかと思う。この日歌ってなかったとしてもツアー中何回かは歌っているはず。どんな気持ちで歌っていたのかすごく気になる。ここからは完全に推測だけど、結婚という人生の大きなイベントを迎えるに当たってふと、ああ大人になったなあと思う瞬間があったんじゃないかと思う。結婚に至るまでには多くの覚悟を決めなければならない。そういう一つ一つを乗り越えて、自身の成長というか、大人になったことを少なからず実感したんじゃないかと思う。そう考えるとイノナキは大人になるとはどういうことか、答えを知ったイノッチから過去の苦しみもがいていたイノッチへの応援歌のようにも聞こえてくる。心配しなくても大人にはなれるから悪ガキのままでいればいい、と過去の自分に優しく語りかけているように聞こえる。私もそんな大人になりたいと思う。私は大人というのは安定を手にした存在だと考えている。安定を手にしたからこそ過去の不安定だった自分を振り返って懐かしむことができるんだと思う。私にはまだそんな余裕はないし、むしろ絶賛不安定期真っ最中。早く大人になりたいと思う。私にもいつか、このエントリーを読んで懐かしいと鼻で笑える日が来るだろうか。ことばにするのはちがうとはおもうけどとりあえずきょうのところはおやすみ。